価値観の発掘とは

こんにちは、社会保障分科会スタッフの高橋です。今日は2週間のセッションを終えて得た気付きについて記したいと思います。

 

京論壇は「人と向き合う議論」を掲げ、自分と他人の価値観を発掘し、それを深く掘り下げることを大切にしていますが、実際にはどのようなプロセスをたどるものなのでしょうか。正直なところ、議論のフレームワークが出来上がっても、なかなかイメージがついていませんでした。

 

さらに根本的な問題に立ち返るならば、そもそも自分が確固たる価値観を持っているかすら怪しいと思っていました。価値観を説明するならば、人が物事に対するとき、そこに如何なる価値があるのかを考える際の、根幹となる考え方、だと思います。しかし、分科会に入るまであまり身近でなかった社会保障というテーマにおいてまで、ぶれない価値判断を下せるものなのでしょうか。ここで、私が自分の価値観を感じるに至った、実際の議論の流れをご紹介します。

 

 第一に、社会保障というテーマは、自分の価値を考える際の道具です。あくまでテーマは道具なのであって、社会保障そのものの政策を考えようとすることがメインではありません。従って、ケース(社会保障に関する事例)を上手く選定して、政策論に陥ってしまわないように、各人の価値観が表出しやすそうな議論をする必要があります。議論が実際に始まらないことには、本当に価値観が見出せるかはわかりません。この重要な、しかし未知にあふれたケースの準備・選定という作業を、議論直前まで綿密に詰めて頑張る分科会メンバーの姿は、今も私の目に焼き付いています。

 

 議論当日、いざケースに対する意見を述べる段階になると、自分が国家の統制よりも個人の自由に重きを置く発言をしていることに気付きました。一つケースを例に挙げるならば、生活保護を受けている人に対して、その使い道をどこまで他人が監視してよいものなのか、という議論がありました。この時私は、その人の生き方の自由を重んじるべく、監視は一切すべきでない、と主張しました。それに対して、社会保障というのは国の制度である以上、人はある程度の自由を犠牲にして国に統治を委託しているのだから、血税に支えられた生活保護の使い道は制約されてしかるべき、という反論が出ました。この差異を見て、初めて私は自分の価値観を相対化し、その特徴を見ることができました。本番セッション後半からは、周りからも「Libertarianだね!」と言われたり、「そう言うと思っていたよ」と言われたりするようになりました。

 

しかしさらに議論が進むと、ケースによっては、自分が個人の自由よりも国家による統制を重んじる場合が出てきました。無論、自分が持つと信じる価値観に合わせて意見を出すというのは、価値観の発掘というよりは、価値観に振り回されているだけですから、考えたままに意見を述べていたわけですが、それにしても意見が変わった自分に驚きました。しかしこの時にも、私に示唆を与えてくれたのは皆の議論でした。「これ以上ケースをやっても、お互いに大分理解してきた価値観に基づいて発言するだけなのだから、意味がないのではないか」と問題提起した人に対して、「ケースによって意見は変わることがあり、そのわずかな変化にこそさらなる価値観が見出せるんだ」と言った人がいたのです。なるほど、では私の意見の変化はどこから出たのでしょうか。それは、先程例に挙げたケース以来、自分が、今議論しているのはあくまで国家が主体となっている社会保障のことであり、その限りでは国家の統制が大事だ、と考えるようになっていたからでした。逆に、NGOや家族間での助け合い、という広い意味での社会保障に関しては、個人の自由や自発性を重んじるべきだと考えていたのでした。

 

このような議論に、濃密な2週間をともにする京論壇の活動の良さがにじみ出ていたように思います。はじめは各ケースについて個々人が意見を激しくぶつけて、互いの差異を見出しているだけでしたが、やがて相手の思考回路まで予想がつくようになり、その人らしい意見だと気付くようになるのです。議論における人の意見を、無闇にその人らしさ、あるいは人格と混同することは確かに間違っています。しかし、その人の本心からの意見というのは、もとをたどれば本人の価値観から出るものであり、また、人格は、その人が自分の信じる価値を重んじるべく行動した結果表れてくるものなのだとすれば、その両者はどこかで繋がっているように思います。価値観の議論、というのは、その人自身をしっかりと理解すべくとことん意見をぶつけることだと思います。価値観は違うのだから、それに合わせる必要はどこにもありませんが、しっかりと受け止め合うことは可能です。互いの価値観を受け止め、さらに発掘していこうと本音をぶつけ合った社会保障分科会の皆さんに心から感謝しています。

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